運動論的減衰乱流ここでは,運動論的乱流に関する最近の研究 [Phys. Rev. Lett. 103, 015003 (2009) または arXiv:0811.2538] を紹介する. 理論の詳細は論文に譲ることとして,ここでは簡単な研究背景と,紙媒体では掲載困難な数値計算結果の動画を示す.
研究の背景天体や実験室等多くのプラズマ中では,平均衝突時間がダイナミクスの時間スケールに比べて長いことが知られている. 衝突が頻繁な通常の流体では局所熱平衡の仮定が成り立つため,各座標点で流体の密度,速度や温度が定義でき,これらの平均物理量に対して3次元位置空間における流体方程式 (Navier-Stokes 方程式など) を用いて運動が記述される. ところが低衝突環境におかれた媒質では,粒子の速度分布関数が熱平衡からずれるため,上記の平均物理量や流体方程式だけでは運動をうまく記述できない. したがって粒子の分布関数に立ち戻り,6次元位相空間において Boltzmann 方程式に基づいた運動の記述を行う. 研究対象としては様々なプラズマ中で引き起こされる乱流を例にとるが,このとき,Boltzmann 方程式を用いることにすると次のような疑問が起こる. すなわち,乱流とは大スケールで注入されたエネルギーなどの保存量が小スケールに運ばれ,そこで効果的に散逸される現象であるが,Boltzmann 方程式における散逸とは衝突によってのみ引き起こされる. なぜなら,Boltzmann の H 定理によく知られるように,孤立した物質のエントロピーは衝突によってのみ増加し,無衝突媒質では原理的に運動は可逆だからである. 一方,衝突は速度空間の微分作用素で記述される. とすると,上で述べた小スケールにおける散逸とは,速度空間における構造の生成を意味する. では,速度空間の構造はどのようにして生成され,また位置空間のスケールとどのように関連しているのであろうか?
数値計算結果
これらの疑問を解決するために,AstroGK
を用いた磁化プラズマにおける減衰乱流の大規模数値計算を行った.
計算量低減と,線形過程により速度空間の構造を生成する Landau 減衰の影響を取り除くため,磁力線方向の一様性を仮定し,位相空間を4次元とした.
計算に使用したグリッド数は約 10 億点(3次元に直すと 次に波数スペクトルの時間発展を示す: ここで![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 最後に速度空間の構造,および位置-速度空間の相関を見るため,2次元スペクトルの動画を示す: 速度空間では,速度![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() © 龍野 智哉 2009-07-08 |